10月 神無月
10月になると、すっかり涼しく秋らしくなってきます。涼しさが寒さへと静かに移り変わっていく時期ですね。「秋深し」「夜長」「肌寒」という季語をながめていると、どこか人恋しくさびしげな想いがつのってきたりします。反面、まさに実りの秋本番を感じさせる季語も並びます。「柿(かき)」「林檎(りんご)」「柚子(ゆず)」「石榴(ざくろ)」「無花果(いちじく)」「栗(くり)」。実は植物の生命の結晶そのものに違いありませんが、鮮やかに色づく葉もまた命を賭けた輝きのように思えます。
色づく葉に華やぐ山々や街路、庭園は、四季のはっきりした日本の秋ならではの風景です。「紅葉狩り」という言葉もあるように、春の花見と同様に、日本人の心に深く刻まれた文化と言えるでしょう。無彩色の風景に変わる直前の色とりどりの紅葉には、何とも見事な季節の輝きを感じさせられます。
銀杏(いちょう)散る 遠くに風の音すれば  風生
色づいた銀杏の美しさ、冷たい風の音。風に舞う銀杏の葉…。静かにふけていく秋をさりげない描写で詠んだ句です。銀杏と言えば、街路樹などに多く見られる身近な木です。紅葉の名所に出かけ、秋の自然を楽しむのも素敵ですが、こんなふうに身近なところでも、十分に秋を感じ、心を豊かにもつことができるのかも知れません。心に響く句に出会ったとき、毎日の忙しさに追われ、季節の変化に無頓着になってしまっていることに気づかされます。少し心にゆとりをもって、花や風や空の変わる様子をながめてみたら、周りのものすべてがもっと違って見えてくるのかも知れませんね。
※富安風生(とみやすふうせい)
1885(明治18)年〜
1979(昭和54)年
愛知県生まれ。
東京大学独法科卒。逓信省には入り、逓信次官を最後に52歳で官界を退く。33歳の時、俳句を始め、やがて「ホトトギス」の代表作家の一人となる。その句風は、おだやかで品があり、独特の軽やかさがあって美しい。かといって気負わず、庶民の感情に溢れている。「恐るべきみごとな平凡人」と評する人もある。
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